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スモールビジネスの再起に必要な官民連携によるデジタル化の推進

ジム・マガッツ(Jim Magats) ペイパル オムニペイメント担当シニア・バイス・プレジデント

クレア・サンダーランド・ヘイ(Claire Sunderland Hay)氏  Visa Inc. ヨーロッパ担当CEO付チーフ・オブ・スタッフ

 

(本記事は、世界経済フォーラムのアジェンダ・ブログに掲載された記事の翻訳版です。オリジナルの記事はこちらからご覧いただけます)

 

中小零細企業(MSME)は、世界経済の基盤であり、地域社会の屋台骨です。そして同時に雇用の創出、コミュニティの構築、機会の実現、革新・競争・多様性の推進を担う存在でもあります。これらの企業が繁栄することで地域社会や経済は発展します。一方、MSMEが苦境に立たされた場合、その影響は広範囲に及びます。MSMEが新型コロナウイルスの世界的な感染拡大や金融不況の影響から回復するためには、まずMSMEの現状を理解することが重要です。

 

MSMEは、世界の雇用の3分の2以上、または世界の新規雇用創出の大部分を担っています。ほとんどのOECD加盟国で、GDPの50%以上を支えているのはMSMEです。特に重要な点は、十分なサービスを受けていないコミュニティの人々を雇用しているのはMSMEだということです。
 

MSMEは、経済や地域社会の健全な発展に欠かせない存在である一方、コロナ禍の影響を大きく受けています。そのような中でも、一部のMSMEは実際に成長を遂げており、米国の国勢調査によると、昨年、米国で設立された企業の数は前年比で20%近く増加しています。しかし、デジタル化により成功した企業はごく一部で、多くのMSMEは未だ苦境に立たされています。

 

デジタル化を進めた企業と融資を受けた企業の成長

ペイパルが行った調査によると、デジタル決済やデジタルコマースのプラットフォームを活用しているスモールビジネスは業績を伸ばしていることが明らかになりました。ペイパルを利用している米国のスモールビジネスは、2020年第2四半期に前年同期比25%の成長を記録しました。これに対し、米国における同四半期のMSME全体の売上は9%減、小売業全体の成長は3.6%減と公表されています。中小企業にとって、Eコマースによって国外の顧客にアプローチできることは、成長や業績回復につながってきました。そしてコロナ禍においては、多様な顧客基盤がさらに重要となっています。ペイパルの調査によると、2020年第2四半期のデジタルを活用しているスモールビジネスの売上の75%は越境ECによるものでした。

 

 

このような傾向は、米国に限らず世界中のオンライン検索キーワードにも影響を与えています。コロナ禍の影響により、「オンラインショッピング」、「フードデリバリー」、「オンライン診療」といったキーワードの検索が増加しており、デジタル経済へのシフトが浮き彫りになっています。

 

デジタル化を推進したスモールビジネスに加えて、融資を受けた多くのMSMEも成長を遂げています。たとえば、米国中小企業庁のペイチェック・プロテクション・プログラム(PPP)融資を受けた多くの企業は、融資後に成長が見られました。前述のペイパルの調査によると、4月にPPP融資を受けてデジタル化に取り組んだ中小企業は、融資前の月では前年同月比でマイナス15%の売上成長であったところ、融資後の3カ月間では平均14%の成長を記録しました。また、ペイパルを利用する中小企業に限定し、中小企業全体とPPP融資を受けた中小企業の取引データを比較すると、2020年の4月から8月にかけて、PPP融資を受けたグループの決済総額は、PPP融資を受けていないグループに比べて、平均して177%増となりました。

 

このようにコロナ禍の中で生き残り、さらには成功を遂げたMSMEが存在する一方で、世界中の、従来型のMSMEの多くは未だ苦境に立たされています。

 

コロナ禍の影響を受けたMSMEに残された大きな課題

コロナ禍の影響で、特に実店舗を中心としたかなりの数の企業がすでに廃業に追い込まれ、それ以外の多くもかろうじてビジネスを継続している状況です。さらに米国では、約3,000万のスモールビジネスのうち、900万の企業が、政府から何らかの支援を受けない限り、今年中に廃業する恐れがあるとされています。世界中で外出自粛が呼びかけられ、不要不急とされた業種の実店舗が閉鎖されたことに加え、消費者の収入や消費力が低下したことにより、スモールビジネスは現在も深刻な影響を受けています。

 

その結果として、スモールビジネスから大企業への大規模な富の移転が起こっています。IHLグループの推定によると、新型コロナウイルス感染症の蔓延を食い止めるために不要不急のビジネスを強制的に閉鎖した結果、コロナ禍の初期段階で、北米だけでも2,500億ドル以上の富がスモールビジネスから大企業に移転したとされています。

 

MSMEが直面している課題の他にも、最近では希望の兆しも見られるものの、経済不況により何百万人もの人々が失業しているという現実もあります。消費者の家計状況は依然として見通しが悪い傾向にあり、消費者は支出に慎重になっています。PYMNTSの最近の調査によると、米国では失業者の約半数は預貯金を2,500ドル以下しか持っておらず、17%の消費者は預貯金がまったくないと回答しています。欧州でも、30%以上の消費者がコロナ禍による経済への影響は続くと考えており、欧州の消費者の3分の1が節約の方法を模索していると回答するなど、消費者は慎重な姿勢を見せています。
 

結果として、消費者は特定の分野で支出を減らし、厳しい家計事情をやりくりしながら、キャッシュフローを管理する方法を模索しています。具体的には、今必要なものを、後払いで手に入れることができるソリューションが求められています。また、コロナ禍の影響で、消費者のデジタルコマースへの移行が加速する一方で、QRコードやNFC(近距離無線通信)を使用した、実店舗での安全な非接触型デジタル決済を期待する声も高まっています。

 

Eコマースやデジタル決済を求める傾向は今に始まったことではありませんが、コロナ禍の影響でEコマースへの移行は加速しています。昨年、消費者が米国企業のEコマースに対して費やした金額は8,600億ドルを超え、前年比44%増を記録したとの試算もあります。ウルグアイでは、2019年6月から2020年6月の間に越境ECによる購入が約37%増加しています。Eコマースによって、国境を越えて新しい顧客を開拓するチャンスが生まれているのです。

 

Eコマースへの移行が進むにつれ、世界中の何百万ものスモールビジネス、特にデジタル化が進んでいない従来型の実店舗によるビジネスが廃業の危機に瀕しています。All India Manufacturers Organizationが6月に行った調査によると、インドでは、約35%のMSMEが事業の継続が困難であると回答しています。Simply Business社の調査によると、英国では、3月から9月の間に、コロナ禍の影響で23万以上のスモールビジネスが廃業しました。

 

2020年8月にマッキンゼーがフランス、ドイツ、イタリア、スペイン、英国のMSMEを対象に実施した調査によると、欧州では、回答者の70%が「コロナ禍の影響で売上が減少した」と回答し、5人に1人が「将来、債務不履行に陥ったり、従業員を解雇したりする必要があるかもしれない」と不安を抱えていることがわかりました。また、調査対象となった企業の半数以上が「事業を1年以上存続できないかもしれない」と答えています。

 

発展途上国では、メキシコ国立統計地理情報院(INEGI)によると、コロナ禍の影響で2020年にメキシコの100万社以上のMSMEが廃業しています。また、ビザ経済エンパワメント研究所(VEEI)が2020年10月に実施した調査によると、ブラジル、コロンビア、マレーシア、フィリピン、南アフリカでは、調査対象企業の半数が「事業活動や売上が急減している」と回答しています。特に、コロナ禍の被害は小規模な企業ほど深刻で、MSMEの60%以上が危機に見舞われ、成長率が横ばいまたはマイナスに転じています。

 

ビジネスを成功に導く、官民の協力

しかし、希望の兆しもあります。途上国を対象としたVEEIの調査によると、越境ECやマーケットプレイスなどのオンラインビジネスを活用している事業者は危機の影響を軽減していることが明らかになりました。また、この調査では、コロナ禍においてかなりの割合のMSMEが、デジタル決済やモバイル決済、QRコード機能、その他の決済サービスを導入し、ソーシャルメディアやマーケットプレイスも積極的に利用していることがわかりました。こうしたデジタルツールを採用した企業は、業績が向上しており、将来の見通しに対しても楽観的でした。なお、調査対象となったMSMEの多くが、今後3〜6カ月間に必要なこととして、「顧客の回復」、「販売チャネルのデジタル化」、「より良いインターネット環境の構築」、「デジタル決済機能の向上」と回答しました。

 

経済活動が再開されるにつれ、企業がより多くの顧客にアプローチするためには、事業のデジタル化やオンラインの活用が必要であることは明らかです。また、実店舗を運営する企業であっても、消費者の新たな期待に応えるためには、実店舗におけるショッピング体験の再構築や、デジタル化の必要があります。MSMEがこのような必要な変化を遂げ、新たな商業環境に適応するには、官民が連携し、融資を受けられる環境と、デジタル化を推進するインセンティブの提供が不可欠です。世界経済と地域社会の復興を支援し、スモールビジネスの存続と発展に向け、官民が協力して、融資を受けられる環境を整備することが求められます。また、同様にデジタル化を推進するインセンティブを提供しながら、スモールビジネスが市場で効果的に競争できるように決済・商取引ツールを平等に利用できる環境を整えることが早急に求められています。このような官民一体の取り組みがあってこそ、世界経済の基盤であるMSMEは、このコロナ禍から強く立ち上がることができるのです。

 
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