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ジグザグ主催イベント「日本の越境ECの可能性と事業を成長させる秘訣は?ジグザグとペイパルの日本トップが徹底議論!」で見えてきた。
日本の越境ECを元気にするエコシステム作りの取り組み
『世界中のワクワクを当たり前に。』
こんなミッションを掲げ、越境EC支援サービス「WorldShopping BIZ」などを提供するジグザグ社。同社では、NO BORDERな感覚で、NO BORDERな活動をするプレーヤーと手を携え、越境ECを身近にしていきたいという思いでNO BORDERウェビナーを実施している。この趣旨に賛同したペイパル日本事業統括責任者のピーター・ケネバンが、vol.3となる「日本の越境ECの可能性と事業を成長させる秘訣は?ジグザグとペイパルの日本トップが徹底議論!」に登壇した。その様子をリポートする。
イベントは、第一部でペイパルとジグザグの簡単な会社紹介、第二部でペイパルのピーター・ケネバン、ジグザグ取締役の鈴木賢氏がパネルディスカッション、その後に参加者のQ&Aセッションというのが大まかな構成。
ピーター・ケネバンはプレゼンテーションの冒頭で、「日本には魅力的なマーチャントがたくさんあり、世界の人々が欲しがるプロダクトにあふれている。しかし、これまでは越境ECについて関心が高まらず、キャッシュレス化も思うほど進んでいない現状があった」と、日本市場の課題を挙げた。そのうえで、次のように挨拶をした。
「こうした課題(キャッシュレス化や越境EC支援)は、決済サービスを提供するペイパルだけで解決することは困難です。物流やマーケティングなど様々なパートナーが連携し、エコシステムを作っていく必要だと思います。よって、こうしたイベントに声をかけていただけるのは、とても歓迎します」。
その後、ピーター・ケネバンがペイパルの概要、ジグザグ取締役の鈴木賢氏が同社の「WorldShopping BIZ」について紹介した。
4億以上のユーザー、3300万の加盟店のネットワークを持つペイパル、JavaScript一行で越境EC対応する「WorldShopping BIZ」
ペイパルは、世界最大のデジタルウォレットで現在4億人以上のアクティブアカウントがあり、1アカウントあたり年間平均44.2件の取引がある。この巨大な顧客基盤と、3300万の加盟店という二面的なプラットフォームで買い手と売り手の双方に安心安全な取引や利便性などを提供することで、急成長している。
オンライン上で利用者がクレジットカードや銀行口座などの様々な支払い方法を利用して決済を安全に行える“アカウント決済”サービスを提供し、エクスプレスチェックアウトという機能では、利用者が好みの支払い方法をペイパルに登録しておけば、次にペイパルを利用する際にログインや支払い方法の選択を入力する必要がなく、承認作業だけで決済を完了できる仕組みだ。
最近では、日本であと払い(Buy Now Pay Later:BNPL)サービスを提供するPaidyを買収したことでも話題を集めた。BNPLは、クレジットカードとは異なる与信を行う決済手段。Z世代と呼ばれる若年層での利用が急速に進み、現在ではミレニアル世代を含む広い年齢層で、新しい買い物体験として浸透しつつある。
「日本のユニコーン企業であるPaidyがペイパルグループに来てくれたことは、とてもエキサイティングな出来事です。いま日本で年間1回以上ペイパルウォレットを使っているのは約500万ユーザーですが、これにPaidyの約500万ユーザーを加えると、約1000万ユーザーになります。この顧客基盤をマーチャントの方々や、ジグザグさんなど越境ECビジネスに取り組んでいるパートナーに活用していただきたいと思っています」(ピーター・ケネバン)。
ジグザグ取締役の鈴木賢氏は、「コロナ禍で訪日外国人は激減したが、海外から日本のウェブサイトに訪れるウェブインバウンドは、流通総額で250~300%、ユーザー数では400~500%(いずれも前年同月比)」と、急増していることをデータで示した。ただし、同社の推測で5000億円程度と見込まれる潜在的な市場が、“おもてなし”を受けず、買い物ができずに帰っていることが課題で、それを解決したいゆえ、NO BORDERセミナーを実施していると話す。
「すでにECを行っていても、言語、物流、決済の壁がある。しかも、常に新しい課題が出てくるので、これらにひとつひとつ対応していくのは大変です。これをJavaScriptを一行入れるだけで、125か国対応にするのが『WorldShopping BIZ』です。EC事業者さんは、インボイスの作成や、外国語での問い合わせ対応は不要。自社のウェブサイトにJavaScriptを一行入れ、売れたら商品をジグザグの倉庫に送るだけで、あとの対応は必要ない、というのがわれわれのプロダクトの特徴です」(鈴木賢氏)
こうした手軽さや、リアルタイムでマーケティングデータが見られることなどが評価され、現在「WorldShopping BIZ」は国内1300サイトで導入されている。
コロナ禍以降、45%が越境ECに意欲的。 中小企業の必死なチャレンジが浮き彫りに
その後のジグザグ取締役の鈴木賢氏とのパネルディスカッションでは、12月に発表した「ペイパル 中小企業によるEコマース活用実態調査」の結果などをもとに、越境ECに取り組むことが好機であることを紹介していった。
「この調査は、中小企業の方々が、越境ECに対して、どのような意識を持たれているかを知りたくて行ったものです。調査前の予想では、越境ECに興味はあるけれど、踏み込めず躊躇しているのかな、と思っていました。しかし、結果は、意外と前向きだったんです。この調査は、中小企業の経営者やマネージャークラスの意思決定層を対象に行ったのですが、その45%の方は、「既に越境ECを行っている」または「行う予定がある」と答えています。カード会社やPSP(Payment Service Provider、決済サービスプロバイダー)の皆さんと話しをしていると、口を揃えて『日本の中小企業は越境ECよりも、ドメスティック(国内EC)だよね』といいますが、この調査結果を見る限り、その意識を改めないといけないと思いました」(ピーター・ケネバン)。
ちなみに、この調査では、コロナ禍で訪日外国人は、ほぼゼロになり、インバウンド需要は“蒸発”してしまったが、ECを始めたり、B2BからB2C、B2CからB2Bなどビジネスモデルを切り替えるなど、さまざまな工夫をすることで、ビジネスを成長させている中小企業の姿も垣間見られる。製品の販売がオフラインからオンラインへ切り替えが進めば、越境ECへの進出は、さまざまなサービスを活用することで、道が開けてくるはずだ。
その一方で、越境ECに踏み込めない理由については、ピーター・ケネバンは「コストがかかる、優先順位が低い、人出不足などが挙がった」ことを紹介した。
「ただし、そうした課題は、ジグザグさんの「WorldShopping BIZ」のようなプロキシィサービスなどを使うことで、壁は取り除けるはず」(ピーター・ケネバン)なので、今後は、こうしたサービスをトータルで活用するためのガイドが大切になっていくだろう。
まずは、始めて見よう! 世界で人気の日本ブランド
ジグザグ取締役の鈴木賢氏は、越境EC支援サービス「WorldShopping BIZ」を試しに導入してみると、アクセスデータと購入データが取れるようになり、それらの事実から次にすべきことが見えてくることを紹介した。
「『WorldShopping BIZ』を導入すると、ショップダッシュボードで、アクセスデータと購入データが見られるようになります。たとえば、アクセスデータでアメリカから、台湾からのアクセスがあるとします。その一方、購入データでは香港で商品が3つ売れていたとします。もし、このデータが手に入ったら、これは、どういう意味があるんだろう? って考えられますよね。とにかく始めて見ると、こういう生のデータが手に入るようになります。データにはウソがないので、やってみる価値はあるはず。ジグザグは、マーケティング会社の経験がある人間が集まっているので、こういう分野は得意ですし、データの価値も理解しているつもりです」(鈴木賢氏)
「WorldShopping BIZ」のショップダッシュボード。左がアクセスデータ、右が購入データ。自社のウェブサイトのリアルなデータが手に入るのが魅力。
まずは試して、誰が買ってくれるのかというデータを集めることが大切であることは、ピーター・ケネバンも強調する。
「日本は物流コストが高いので、そこがペインポイントに挙がることに驚きはありませんでした。が、いろいろとやり取りをしてみると、皆さんが意外と悩んでいるのはマーケティング。どう売ればいいか、誰が買うのかが悩みだったんです。そこは、ジグザグさんが提案するように、それは悩む前に売ってみれば? という、一歩踏み出すことが大事と思います。始めればデータが集まり、そのデータを活かして成長し、そうするなかで効率よく売れるようになる。なので、まずは始める。それが大事だと思います」(ピーター・ケネバン)
日本のプロダクトやコンテンツは、世界的に評価が高く、日本そのものがブランドになっている、というのがピーター・ケネバンの持論。
「なぜ、ペイパルが日本のビジネスに力を入れているのか。その理由は、中国、アメリカ、英国などに並び、海外から日本のモノを買う人々が本当に多いからです。彼ら彼女らが、なぜ日本のモノを買うかというと、品質が高く、日本にしかない魅力的なモノがあること、そして日本製品そのものがジャパン・ブランドとして認知されているからです。カメラ、ファッション、玩具、コスメ、ゲーム、さらには優れた工業製品や伝統工芸品など、魅力的なものを挙げたらキリがありません。ペイパルは、こうした日本の魅力を、世界に発信していくお手伝いする活動を、ますます頑張っていきたいと思っています」(ピーター・ケネバン)
鈴木賢氏は、越境ECのビジネスをしながら、日本のプロダクトやコンテンツの魅力を再認識しているという。
「私たちは、海外の方が商品を買って、初めて売れ筋がわかるんです。で、ときどき、なぜこれが売れるんだろう? って疑問に思うことがある。その理由を調べてみると、実はアニメやゲームなどと連携していて、なるほどと納得させらることが少なくありません。今後は、このように日本に強みのあるコンテンツと連携した情報発信などもいけるかもしれません」(鈴木賢氏)
こうして、さまざまなアイデアも飛び出してきたパネルディスカッション。その後はQ&Aのセッションに移った。参加者からは、越境ECに関して具体的な質問が、ペイパルとジグザグ社の両者に寄せられた。熱意ある質問内容から、参加者の越境ECに対する真剣な姿勢をうかがい知ることができた。
NO BORDERウェビナーに関する情報は、Twitterのハッシュタグ「#NOBORDER越境EC」で見つけられるほか、ジグザグ社のウェブサイトにも掲載されている。ジグザグ社のように、同じ課題を持つプレーヤー同士が協力してエコシステムを作り、越境ECを一緒に元気にするというアプローチは、非常に意義のある取り組みだ。今後の動向にも注目していくことで、日本の越境ECの“いま”が見えてくるに違いない。