企業リサーチと考察
ペイパル グロースマーケット担当シニアバイスプレジデント サンバ・ナタラージャン(Samba Natarajan)
アジアは世界中のEコマースの最前線に立っており、その成長は2022年も続くと予想しています。2021年初頭、アジアは世界のオンライン小売売上高の60%近くを占め、中国の消費者の購入だけで世界のオンライン購入の3分の1以上を占めています。
新型コロナウイルス感染症の影響もあり、オンラインプラットフォームはスタートアップ企業から大手小売業者に至るまで、ビジネスの主戦場になりました。
企業にとって、ビジネスを成長させるためには、越境ビジネスを拡大し、世界中の消費者にリーチすることがカギになっています。アジア全域における可処分所得の増加とインターネット普及率の上昇が、同地域のEコマースおよびデジタル経済の急成長に拍車をかけました。さらに今年発効された地域的な包括的経済連携(RCEP)などの新しい貿易協定の導入も、要因の一つとなっています。
そうした中、アジアのEコマースに影響を与えている様々な要因のうち、どれが長期的なトレンドになるのでしょうか?以下に、2022年に注目すべき5つの重要なトレンドを挙げます。
1. アジアにおけるデジタルファーストのアプローチ
コロナ禍で、オンラインショッピングは驚異的な成長を遂げました。東南アジアだけでもデジタル消費者の数は7,000万人増加しました。緊急事態宣言やロックダウンなどに戸惑いながらも、複雑なショッピング環境の提供を強いられてきた大小の小売業者は、ただ生き残るためだけでなく、ビジネスで成功するためにデジタルを活用したいと考え始めています。
デジタルトランスフォーメーションの市場規模は、アジアだけでも、2027年までに1兆3,000億米ドルを超えると予測されています。現在、小売業者は、顧客基盤の拡大、エンゲージメントの向上、変化するニーズに対応したサービスや商品の開発、クラウド活用によるデータ利用の最大化などを目的に、デジタルツールを導入しています。
2022年に小売業者は、デジタル化におけるロードマップの達成とデジタルマチュリティ(デジタル化の成熟度)の向上を目指した取り組みを確実に遂行するなら、さらに成長を遂げることができるでしょう。
2. パーソナライズされた円滑なショッピング体験
オンラインショッピングが飛躍的に伸び続けている中で、小売業者がEコマース・ブームに乗るためには、単にオンライン上で存在感を示すだけでは十分とは言えません。
小売業者にとって、今や円滑なショッピング体験の提供が不可欠となっているからです。消費者がログインしてからチェックアウトするまでの時間が1秒伸びるごとに、コンバージョン率が7%低下すると言われています。サイトの読み込み速度の向上、直感的なナビゲーション、円滑なチェックアウトのプロセスは、デジタル消費者のニーズと好みに応えるためのほんの一例に過ぎません。
また、新型コロナウイルス感染症の影響で、消費者の間では、顧客ロイヤルティが低下し、新しいブランドを試そうとする傾向が強まっています。そのため、消費者を引き止めるために、ターゲットとなる消費者のニーズを理解し、それぞれにパーソナライズされたインセンティブを提供し、製品のレコメンデーションを最適化することが大切です。その際にデータが重要な役割を担います。
在庫管理は、もはや行き当たりばったりでは成功しません。今日の競争環境において、小売業者は勘に頼ってビジネスをすることはできず、データの力を活用することで、ニーズを予測し、カスタマイズされた体験を提供する必要があります。
3. 多様化する決済方法:幅広い選択肢の提供
調査会社IDCによると、2025年までにデジタル決済はEコマース支出全体の91%を占めるようになると予想されており、それに伴い、デジタル決済手段の多様化が進むと考えられています。
また、越境ECのモバイル決済が普及し、アジア地域全体で電子決済システム間の相互運用性が高まることが予想されます。最近、シンガポールと韓国が新たにデジタル経済協定を締結しましたが、これは越境電子決済における二国間協力の深化と進展を告げています。
4. オンデマンドサービスとライブストリーミング配信
オンラインショッピングに慣れ親しみ、いつでもどこでも買い物ができる利便性が当たり前になるにつれ、消費者はすぐに購入できるパーソナライズされたサービスを求めるようになっています。
小売業者は、サービス体験の向上に投資し、24時間対応のAIチャットボットや、WhatsAppなどのメッセージアプリの活用など、革新的なサービスを導入しています。また、ブランドがリアルタイムで商品を紹介し、コンテストやクイズなどのライブエンターテイメントで視聴者のエンゲージメントを高め、参加と購入を促すライブストリーミングなどのソーシャルメディアを活用した販売も台頭しています。
ライブコマースは2016年に中国で初めて登場しましたが、コロナ禍で実店舗での買い物が制限されたことを受け、2020年からアジア地域全体で人気に火がつきました。実際、シンガポールでは、オンラインショッピング向けのライブストリーミングだけでも、2020年3月から2020年12月までに、1,890%増加したと報告されています。
また、ソーシャルメディアは、マーケットリーチを拡大し、潜在的な顧客層をより幅広く掘り起こすための優れたツールになりえます。これを可能にしたのは、越境決済システムがシームレスに利用できるようになったことに加え、決済パートナーがグローバルに展開し、加盟店が多くの通貨で決済を受け入れることができるようになったことです。
5. 不正防止に向けた強固なセキュリティ基盤
デジタル決済の普及に伴い、詐欺やサイバー犯罪に対する懸念も必然的に高まっています。アジア太平洋地域の企業10社のうち8社が今年中にセキュリティ侵害を受ける可能性があると予測しており、サイバー犯罪による被害額は2025年までに全世界で10兆5000億米ドルに上ると見込まれています。
したがって、企業はよりシームレスな決済体験の実現に取り組む一方で、それに伴うリスク管理にも力を入れる必要があります。ネット詐欺師による手口はますます巧妙になっており、単にデータを盗むだけでなく、それらを改ざんするなど、企業と消費者の間の信頼関係を揺るがせる原因となっています。こう言った問題に対抗するために、業界ではジオロケーション、音響分析、さらにはデータ分析に基づく認証など、新しいテクノロジーの進化と活用が進んでいます。
今後、企業はリスク管理に継続的に投資し、進化させていく必要があります。つまり、リスク管理ソリューションの迅速な展開、サイバー脅威に関する研究の積み重ね、AIや機械学習といった技術の活用により、こうした詐欺師たちの一歩先を行かなければなりません。
まとめ
2021年は、デジタル決済、オンラインショッピング、シームレスなオンデマンド体験という新しい文化が定着しました。小売業者は、従来のマーケットシェアに頼らず、オムニチャネル戦略の構築に注力する必要があります。そのためには、単にテクノロジーを導入するだけでなく、企業カルチャーの変化も求められるでしょう。
業界が進化し続ける中で、決済手段が今後どのように変革してくのか、非常に興味深く注視しています。