サンバ・ナタラージャン(Samba Natarajan) ペイパル グロースマーケット担当シニアバイスプレジデント
旅行・観光業は世界中で経済の成長と雇用を牽引しています。2033年までに、この業界は15.5兆米ドル規模に成長し、世界経済の11.6%を占めると予想されています1。
旅行業は、アジアやラテンアメリカの発展途上市場において、特に強力な成長エンジンとなっています。そうした地域では新しい旅行先が人気を集め、新中産階級が旅行を楽しみ始めています2。旅行業者にとって、ビジネスチャンスはかつてないほどに大きくなっているのです。
この絶好の成長機会を捉えるために、旅行業者は消費者の期待に応え、特に2027年までに総売上の74%を占めると予想されるオンライン販売3に向けて、信頼性の高いシームレスな決済システムを導入する必要があります。
とりわけ、ますます高まる消費者の期待に応えるために、旅行業者は、「セキュリティ」、「利便性」、「信頼性」という3つの要素に取り組まなければなりません。
成長市場におけるセキュリティの向上
消費者はオンライン上で個人情報や決済情報が安全に保護されていると分かれば、安心して取引することができます。一方で、消費者が決済サービスを信用できないと感じ、リスクを冒してまで購入したくないと判断した場合、企業は機会を逸することになります。
例えば近年、メキシコの観光業が盛んになり4、特にメキシコ人による国内旅行が増えていますが、2023年にペイパルが実施した調査によると、メキシコ人旅行者の63%が、国内の業者でオンライン決済をする際に、カード情報の安全性を懸念していることが分かりました5。さらに34%は旅行業者が十分な種類の決済方法を提供していないと感じており、82%はデジタルウォレットに対応していれば、その支払い方法を選ぶと回答しました。
消費者のカード情報を保護する仕組みを構築しているペイパルのようなデジタルウォレットは、決済時に安心感を与えてくれます。メキシコのような発展途上国において、旅行業におけるEコマースがブームになるにつれ、この分野の成長にはサイバーセキュリティの向上が不可欠です。
しかし、あらゆる不正を企業自らが排除しようしても、長期的には持続可能ではありません。インテリジェントな不正管理ツールがなければ、顧客は時間のかかるセキュリティ・チェックを自ら行う必要があります。そうなれば、よりシンプルなショッピング体験を提供する競合他社に顧客を奪われてしまうリスクがあります。
インテリジェントな不正管理ツールは、オンライン詐欺を排除し、企業が自社のシステムを継続的に管理するための強力な手段となります。
消費者中心の利便性の高い決済方法の提供
多くの企業が、新たにグローバル市場への拡大を模索していますが、各市場で好まれる決済方法はそれぞれ異なります。各市場に適した決済体験を提供できるかどうかは企業次第です。
消費者は、EC上で利用可能な決済方法が自分のライフスタイルやお金の管理におけるニーズに適していない場合、ショッピングカートを離脱(カゴ落ち)する傾向があります。2022年の調査(英語)によると、日本では自分が希望する決済方法が利用できない場合、消費者の43%はショッピングサイトを変更すると回答し、20.2%は買い物をやめると回答しています。
日本では従来、飛行機や高速バスのような高額な代金の支払いのほとんどは、クレジットカード、事前振込み、または現金で行われてきました。これは、可処分所得が少なく、節約志向の強い、今のZ世代の旅行者にとっては理想的とはいえません。
その点、Paidyのようなあと払い(BNPL)サービスは、手数料無料((口座振替・銀行振込時)の分割払いが可能なため、若い旅行者の間で人気が高まっています。
消費者における支払い方法の好みが変化するに応じて、BNPLのような新しい決済方法を柔軟に導入する企業は、新しい消費者層を取り込み、顧客ロイヤルティを獲得するチャンスがあります。
信頼性と承認率の向上
長期的な成長を維持するためには、サービスが安全で便利だというだけでなく、信頼できるものでなければなりません。取引の承認率は、ビジネスの成功のバロメーターとなり得ます。企業は、増加する不正やチャージバックのリスクを減らし、より多くの取引を成功させることで、優れた顧客体験を提供したいと考えています。
承認率とは、チェックアウト・プロセスを正常に完了した取引の割合を指します。高い承認率は、より多くの取引が承認されたことを意味し、収益の増加を促進し、リピーターを増やします。大企業の場合、承認率が数ベーシスポイント増加するだけで、数百万ドルの追加収益につながる可能性があります。その追加収益は、新しいプロジェクトや、より多くの製品開発、グローバル市場への拡大などに結びつくのです。
2021年にペイパルが実施した調査によると、正当な理由なく決済が通らなかった買い物客の44%が、その店舗での買い物を止めたり、買い物の機会を減らしたりしていることが分かっています6。
進むべき道
世界はかつてないほどビジネスにオープンになっています。野心的な成長計画を描く企業は、単一のAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)統合を通じて、自社の決済エコシステム全体を管理する、オーケストレーション・サービスを求めています。そしてどの企業も、コストを意識しながら自社のロードマップを進めています。
足踏みすることなく、真の意味でトレンドの波に乗るために、企業は決済において、消費者のセキュリティ、利便性、信頼性の向上を常に優先し、誰もが世界で成長する旅行市場の経済的メリットを享受できるようにする必要があります。