*本記事は、世界経済フォーラムのブログで公開されました。また2019年1月23日に米国本社にて発表された資料の抄訳です。英語資料はこちらをご参照ください。https://www.paypal.com/stories/us/evolving-financial-services-to-meet-needs-of-the-global-workforce
人工知能(AI)、機械学習(ML)、自動化の台頭、インターネットをベースとした技術プラットフォームの急増、そしてより起業家的な収入源への移行等が組み合わさり、人々が働き収入を得る方法が根本的に変わりつつあります。この変化が一層の繁栄と平等をもたらすかどうかは、私たちの対応にかかっています。今は、新しいグローバルな労働環境で働く人のニーズによりよく応える新しい金融サービスを構築するチャンスです。こうした労働環境で働く人は、既存の製品やサービスでは十分なサービスを受けられていない可能性があるからです
現在の金融サービスは主に、単一の雇用主に(多くの場合、生涯にわたって)雇われ、9時から5時の仕事に就いている人向けにデザインされています。例えば、支払い、貯蓄、そして資産管理などのシステムは、2週間ごとに安定した収入を得られることを前提として考案されました。しかし、収入を得る方法が変化するにつれて、お金の支払い方法と管理方法も変化するべきです。それにより、収入が多様で、職業再訓練や退職に関してより大きな個人的責任を負う新世代の財政の健全性を実現することができます。
金融サービスの民主化という弊社のミッションに沿って、私たちは未来の人々の働き方が金融サービス業界が彼らに提供するサービスに影響を与えるという事実に焦点を当ててきました。これに基づき、PayPalは、人々のお金を稼ぎ方と使い方をより適切にサポートするために、金融サービスがどのように進化すべきかを理解する目的で、この種のものとしては初のグローバルな調査を実施しました[1]。
私たちはこの調査結果から、向こう数年のグローバルな労働力を特徴付ける4つのキートレンドを特定し、金融サービス業界がこれらの変化するニーズに応えるためにどのように進化する必要があるかを明らかにしました。
1. オンラインをプラットフォームとする経済は急速に成長しています。このオンラインプラットフォーム経済に従事している労働者は、彼らのニーズに応える新しい金融ツールを必要としています。
アメリカ合衆国での2005年から2015年にかけての純雇用成長の90%以上は、「オルタナティブワーク」カテゴリーに属するものです。アメリカ合衆国で2005年から2015年にかけて創出された1,000万件の仕事のほぼ全てが、伝統的な9時から5時の仕事ではないことを意味します。ますます多くの人がオンラインプラットフォームを介して収入を得ていると思われます。PayPalでも、類似したトレンドが確認されています。PayPalを利用するプラットフォーム企業の合計決済額(TPV)は、2014年から2018年の間、対前年比で平均47%成長しました。
プラットフォーム経済の成長は、例えば主要な収入源が絶たれても支払いに困らないなど、労働者に多くの財政的なメリットをもたらしています。とはいえ、これらのプラットフォームで収入を得ている人の金融ニーズは、十分に満たされているとは言えません。たとえば、回答者の51%は過去12ヶ月間に支払いが遅れたことがある、あるいは手数料が発生したことがあると答えています。
収入によりスピーディにアクセスできることによって、労働者の財務管理をより容易にすることができます。アンケートに回答したプラットフォーム経済下の労働者の63%は、仕事で得た報酬をより頻繁に受け取りたいと答えています。[2]PayPalでも、類似したトレンドが確認されています。例えば、PayPalが先日取得したHyperwalletプラットフォームを介したプラットフォーム経済労働者への即時支払いは、前年比で200%以上増加しています。
2. 自動化、機械学習、人工知能等が新たな仕事を生み出す一方で、収入はより多様に、より不確実になると思われます。労働者には職業再訓練や新しいタイプの信用取引および貯蓄へのアクセスといったことが必要になります。
世界の仕事の40%は、15年以内に自動化されると言われており、最近のマッキンゼー調査によると、今後10年で、7,500万から3億7,500万人の労働者は職種を変え、新しいスキルを学ぶ必要が生じる可能性があります。
しかし一方で、人々やその家族には財政的な備えがありません。8,000人を対象とする当社アンケートでは、自動化の影響を受ける可能性の高い仕事に就いている労働者のうち、主な収入源が途絶えた場合に6ヶ月以上生活を維持する貯蓄があると答えたのは、わずか38%でした。
急速に変化する経済環境において、労働者が新しいポジションに向けて再訓練する、または、より起業家的なアプローチをとれるよう、金融サービス業界は、短期的な貯蓄を促進し、新しい先進的なクレジットサービスを生み出すソリューションを構築する必要があります。
3. 収入創出には起業家精神がますます重要になりますが、起業家や小規模事業主は、事業の早期立ち上げと運転を助け、収入変動を小さくするために、より迅速な資金へのアクセス、より優れた財務管理ツール、そして信用取引を必要としています。
さまざまな理由から、人々はより起業家的な行動をとるようになっています。生計を立てるために事業を始めることは珍しくなくなりました。調査によると、小規模事業主は伝統的な9時5時の仕事に就いている労働者に比べてより経済的な回復力があり、将来に自信を持っていますが、その一方で、アンケートに回答した小規模事業主のうち、毎月安定した収入を得ていると答えたのはわずか46%でした。アンケート回答者全体では72%です。さらに、小規模事業主の55%は過去12ヶ月に支払いが遅れたことがあると答えました。これは、調査対象のどのグループよりも高い割合です。
このような状況を改善するために、小規模事業主の77%は、収入をより頻繁に受け取ることを希望しています。これは、この調査を通じて浮かび上がってきたテーマです。これらの変化するニーズに対応するために、新しいソリューションを生み出す必要があります。
小規模事業主がより多くのビジネスチャンスや仕事を手に入れ、多様性を獲得し、コミュニティの全般的な健全性を高め続けるのをサポートするためには、より優れた財務管理ツールおよびクレジットソリューションが必要です。
4. ミレニアル世代はより柔軟な働き方を求めており、財務管理はデジタルツールで行うことを希望しています。財務管理のための、より強固なエンドツーエンドのデジタルツールが必要です。
アンケートに回答したミレニアル世代のうち、複数の仕事をしていると答えたのは34%と、X世代の25%を上回っています。ミレニアル世代は柔軟性を好み、頻繁な転職にも抵抗がない傾向にあります。アメリカ合衆国で実施された2016年のギャラップ調査では、ミレニアル世代の21%が1年以内に転職したと回答しました。これは、ミレニアル世代以外の世代の3倍です。新興市場の回答者と同様に、がデジタル支払いアプリを通じて収入を受け取ることを希望するミレニアル世代はX世代と比べて16%多くなっています。興味深いことに、ブラジル、中国、インドのアンケート回答者で、デジタル支払いアプリで収入を受け取ることを希望するとした人は、その他の地域と比べ54.5%多くなっています。
この新しい労働者層により良いサービスを提供するため、金融サービス業界は、複数の収入源に対応し、労働者が収入の変動に対処できるようにする強固なデジタル財務管理ツールへのアクセスを民主化する必要があります。
金融サービス業界のイノベーションは、個人、家族、ビジネス、そしてコミュニティの財務健全性と回復力を高めるというゴールを優先しなければなりません。全世界の17億人の人はいまだに公的な金融サービスにアクセスすることができず、さらに多くの人は伝統的な金融システムでは十分なサービスを受けられずにいます。金融サービスの改革がフォーカスすべきなのは、これら個人が、支払いをし、支払いを受け取り、支出を管理し、緊急事態に備えて貯蓄し、クレジットにアクセスし、未来に向けて計画する等を行える能力を高めることです。
私たちが生きる世界では、テクノロジーが仕事の未来と金融サービスの未来をますます決定付けるようになります。しかし、テクノロジーをいかに構築し、いかに使用するかを決定するのは、人間だということを思い留めておく必要があります。人々の財務の健全性にとって有益な金融サービスを慎重にかつ責任をもって選択できなかった場合、未来の仕事における困難な事態が拡大する恐れがあります。
1 PayPalの調査研究は、25を超える国々での100人以上の専門家とのインタビュー、および8ヶ国8,000人を対象とする委託調査からなります。
2「より頻繁」とは、毎日、毎週、「商品を販売/製造し次第」または「従事していた仕事が完了し次第」などを意味します。