「ペイパル コミュニティ・インパクト・プログラム」のひとつとして実施された「PayPal テクノロジーチャレンジ」が3月から3ヵ月にわたって行われた。今回は最終レポートとなる。
本プログラムでは、ソーシャルセクターにおけるテクノロジーイノベーションをどのように立案し、求められる変革としてどのように実装していくかを、参加6団体※1ともに検討を重ねた。本プログラムの講師兼モデレーターを務めた金 辰泰(きむ・じんて)さん※2が全般を通じて言い続けたことは、社会課題は複雑なためひとり(1団体)で閉じないで、新たに価値を繋ぎなおすことでより大きなソーシャルインパクトを生みだせる、ということ。
※2:立命館大学客員研究員、Shared Digital Center代表取締役 金 辰泰
また、金さんがナビゲートした手法は、スタートアップなどで用いられている事業開発の手法で、①異なる社会課題を繋げるイシューリンケージという発想での課題発掘、②ビジネスモデルキャンバスによる自分達の想いや考え方の言語化、③MVP(Minimum Viable Product:実用最小限の製品)によるリーンな無駄のない仮説検証でデジタルソリューションを開発する3点であった。そうした視点での示唆は、参加団体のみならず、我々ペイパルにとっても、有益な価値を提供してもらった。
「PayPalテクノロジーチャレンジ」の成果は?(2)
前回のレポートに引き続き、各団体の課題とソリューションプランをレポートする。
認定NPO法人おてらおやつクラブは、お寺のお供えものを、仏さまの「おさがり」としていただき、経済的に困難なひとり親家庭に「おすそわけ」している。子どもをサポートする支援団体を通じて「おさがり」を届けるほかに、おてらおやつクラブが直接届ける活動も行う。現在、1872寺院からの「おさがり」を、605団体と一緒に届け、月間支援のべ人数は2万3000人に及ぶ。
おてらおやつクラブでは、特に支援を受けた家庭から寄せられる「声」(「おさがり」の受領報告には、自発的なお礼や意見が含まれるケースが非常に多い)を大切にしているという。この「声」の中には、子どもに食事を与えて自分は我慢しているという「声」も多く含まれているからだ。支援の数が増え、今後も増やそうとしている中で、この緊急性の高い「たすけて」を、どう見つけるか?をデジタルの力を通じて解決する方法を探った。
また、おてらおやつクラブでは、「たすけて」という声に応えると同時に、職員の働き方をデジタルの力で解決できないか、とも考えている。その手段として、AIの自然言語処理により、緊急性の高いものを判別するプロダクトの開発を議論。これにより、困難な家庭のニーズに対応すると同時に、職員の心理的・時間的負担を軽減することを目指した。さらにこのソリューションを活用して、支援元である寺院のモチベーションアップにもつなげていきたい、と意気込んでいる。
「放課後はゴールデンタイム」というコンセプトのもと、小学生にとって放課後の時間を、安全で、豊かにする活動を行うNPO法人放課後NPOアフタースクール。 安心・安全な場と本物・多様な体験が両立する「アフタースクール」の運営、企業とともに楽しく学べる機会を提供するソーシャルデザインという2つを主な活動とする。
今回設定した課題は、 全国の放課後事業者や関係者同士がつながり、情報交換や交流をすることで、課題や知恵、アイデアを互いに共有するウェブサイト「放課後をもっと楽しくNET」のさらなる活用。特定の放課後現場に焦点を当て、すでに把握している課題、実施したアプローチなどを整理していった。
その整理の過程において、プロボノとして参加したペイパル社員の視点に発見があった。そもそも自分達では「放課後現場の課題を解決したいよね」「オンラインで何かできたらいいよね」といったフワっとしたイメージで話していたが、もっとサービスを輪郭化させていきたいと考え、別途ミーティングを持った。
ペイパル社員からは「誰に、どのように使ってもらいたいのかを絞り込む必要があるのでは?例えば、一般市民が参加できないか?」「漠然と入れたい機能を追加するだけで良いのか?」「すでに世の中にあるツールを組み込むことで、追加機能のローンチスピードが上がる」といったビジネス的な視点をもらったことで、「こうできたらいいよね」から、言葉を選ばずにいえば誰にも「使わせるウェブサイトにする」という、より具体的な方向性が定まった。
この仮説を立てた上で、リスク、コスト、時間などを再検証し、今後の団体内での検討や、合意を経て、実施の可能性を探っていく議論を重ねた。イシューリンケージへの意識、MVPや仮説の言語化など、内部にはない知見を使い、本質的な議論ができたことが印象に残ったと言う。今後も、放課後アフタースクールでは、ペイパル社員たちに、追加サービスの具現化に向けて協力を仰いだ。
今回の参加団体では唯一の企業体組織である株式会社御祓川(みそぎがわ)からは、Tokyo Branchのメンバーが参加した。御祓川は、石川県七尾市のまちづくり会社。まち・みせ・ひとを育て、地域の経済を循環させていくことがミッションで、創立23年目を迎える。能登半島の里山里海そして伝統文化を維持継承していく、そのプレーヤーと連携し、支援している。
御祓川が設定した課題は、里山里海のくらしを持続可能にするための資源(人・金)をデジタルで調達する方法の検討。里山の産業衰退と、山の荒廃、水源涵養機能の低下という2つの課題をイシューリンケージに設定。これを解決するために「里山NFT」の開発を仮説とした。山古志村(新潟県)の電子住民投票&NFTを先行事例とし、その実現性を探った。
資金調達という経済面からアプローチしたが、コミュニティの精神的な満足度をいかに担保することが大事で、それがなくなると投機的な行為となり、本来の目的と乖離してしまう。今回の「PayPalテクノロジーチャレンジ」では、デジタルによるバーチャル空間でも、地域の一員である感覚が大切なことを再認識できたことに強く心を動かされたと振り返る。
6団体の活動に今後も期待
参加6団体は、この3ヵ月の活動の中で得た知見や方法論、他の団体の考え方を取り入れながら、現在もそれぞれ具体的な社会変革の実践に向けてのプランやアイデアを固め、取り組んでいる。「PayPalテクノロジーチャレンジ」で発見した新たなターゲットを開発した団体、既存のテクノロジーを組み込むことで具現化のスピードアップを図る団体、また、本人たちが気づいていなかった資材やプログラムの価値を金さんやペイパル社員たちが指摘することで新たなソリューションに可能性を覚えた団体、自治体や政府との連携を模索する、また、海外からの参加などを視座にいれたプランを模索する団体など、大いに議論が広がった。
金さんからも「『PayPalテクノロジーチャレンジ』はとても楽しく有意義な時間でした。私はデジタルからのアプローチで社会変革をしようとする皆さんをサポートする役割として参加しましたが、お話を聞いているうちに、逆にアナログでしかアプローチできない観点もあるな、など、自分としても本当に皆さんの発想に多いに刺激を受けました」とした上で、「今回、検証した皆さんのプランが具現化されることを信じておりますし、楽しみであります。私も、参加6団体の皆さん、そしてペイパルの皆さんと、さらにつながりながら、より素晴らしい社会を創るためのテクノロジーチャレンジをさらに追及していきたいと思います」と語った。
「PayPalテクノロジーチャレンジ」に参加したペイパル社員の強み
最後の全体ミーティングでは、参加団体からの発表があった後、ペイパル東京支店シニア・ディレクター兼副代表の瓶子昌泰から、全体の総括があった。
「私は、ザ・日本企業からペイパルに転職したのですが、入社して以降毎年、自分で確定申告を行っています。ある時にふと、この税金って、社会のためにどう使われているんだろう?という疑問を持ったことがあります。今はふるさと納税もありますが、それ以外にも、社会課題に対して、何かできることがあるのではないかと考えたことがありました。その想いがずっと残っておりまして、今回のプログラムの参加を決めました。
私と似たような感覚を持つ社会人は少なからず多くいると思います。こういう機会を活かして、皆さんのように社会課題に真っすぐに向き合っている方々と交流できれば、私たちも学びが多いと感じました。今回は本当にありがとうございました」と述べた。
今後もペイパルではデジタルの力で社会変革を促す取り組みに挑戦していく。
前回の記事はこちら
デジタルで社会課題と向き合い、価値を生み出す「PayPalテクノロジーチャレンジ」
「PayPal テクノロジーチャレンジ」の参加団体が得た社会変革の可能性とは?